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東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)62号 判決

東京都千代田区神田須田町一丁目七番地

原告

株式会社神田共済会

右代表者代表取締役

鯨岡亘

右訴訟代理人弁護士

松本健二

東京都千代田区神田錦町二一-三

被告

神田税務署長

玉田喜久男

右指定代理人

武井豊

沖上照

竹田準一

沼田定美

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五七年九月一六日付けで原告の昭和五四年五月一日から昭和五五年四月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和五七年六月三〇日付けで原告に対してした昭和五五年六月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和五四年五月一日から同五五年四月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について原告がした確定申告、これに対して被告がした更正(以下「本件更正」という。)並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定、これらに対する不服申立ての経緯は、別表一記載のとおりである。

2  被告が原告に対してした昭和五五年六月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分(以下「本件告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定、これらに対する不服申立ての経緯は、別表二記載のとおりである。

3  しかしながら、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法があり、したがって、これを前提とした重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定も違法である。

また、本件告知処分には退職金を役員報酬と認定した違法があり、したがってこれを前提とした不納付加算税の賦課決定も違法である。

よって、原告は右各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認めるが、同3は争う。

三  被告の主張

1  本件更正の適法性

原告の本件事業年度の所得金額及びその算出根拠は以下に述べるとおりであるから、本件更正は適法である。

(一) 原告の本件事業年度の所得金額は次表のとおりである。

〈省略〉

(二) 右表の各区分の内容は次のとおりである。

(1) 申告所得金額

原告が昭和五五年六月三〇日付けで被告に提出した本件事業年度の法人税の確定申告書に記載されていた金額である。

(2) 損金と認められない未払退職金

原告は、原告が訴外富士忠物産株式会社(以下「富士忠物産」という。)を吸収合併したとして、昭和五五年三月一〇日開催の臨時株主総会において、富士忠物産の役員であった者に役員退職金を支払うこと並びに退職金の額は鯨岡亘(以下「亘」という。)に二八五〇万円、鯨岡和哥子(以下「和哥子」という。)に三〇〇万円、鯨岡利男(以下「利男」という。)に三五〇万円、鯨岡力(以下「力」という。)及び鯨岡泰子(以下「泰子」という。)に各六〇〇万円とすることを決議し、同年四月三〇日に右退職金を損金の額に算入するとともに未払金に振替経理した。しかしながら、原告が富士忠物産を合併したことはなく、また、原告の役員は設立以来亘、和哥子、利男及び力だけであって、右の者らが昭和五五年三月一〇日までに原告の役員を退職した事実はなく、泰子が原告の役員に就任したこともない。したがって、原告の亘、和哥子、利男及び力に対する未払退職金四一〇〇万円は原告の役員に対する臨時的な給与すなわち賞与であり、泰子に対する未払退職金六〇〇万円は同人に対する贈与である。

そこで、四一〇〇万円を役員賞与として、六〇〇万円を未払寄付金としていずれもその損金算入を否認する。

(3) 損金と認められない交際費

原告は、訴外料亭千代田に対して、昭和五五年三月三日に二〇万九五八〇円、同月一〇日に三一万〇八八〇円の合計五二万〇四六〇円を支払ったとしてこれを交際費に計上し、損金の額に算入していたが、原告が右金員を支払った事実はないので、右金額を所得金額に加算する。

(4) 損金と認められない諸会費

原告が昭和五四年七月二四日に訴外グリーンクラブに対して支払ったとして原告の諸会費に計上し、損金の額に算入していた五万円は原告の代表取締役である亘が個人的に費消したものであるから、右金額の損金算入を否認し、これを所得金額に加算する。

(5) 損金と認められない福利厚生費

原告は訴外奥津弘之に対して昭和五四年六月一五日に二七万六〇〇〇円、同年七月一四日に一八万円、同月二〇日に三万二〇〇〇円の合計四八万八〇〇〇円を支払ったとしてこれを福利厚生費に計上し、損金の額に算入していたが、右金員は、原告の代表取締役である亘のゴルフレッスン料として支払われたものであるから、右金額の損金算入を否認し、これを所得金額に加算する。

(6) 損金と認められない支払手数料

原告が、原告の支払手数料であるとして損金の額に計上していた金額のうち、〈1〉別表三記載の合計一二〇万一三六〇円は原告の代表取締役亘及び同監査役力が個人的に費消したものであり、〈2〉別表四記載の合計一二五万円は原告がこれを支払った事実がなく、また、〈3〉訴外池田成章に支払ったとして支払手数料に計上されていた四万八七〇〇円は訴外芙蓉コンサルタント株式会社の設立費用であって原告の支払手数料ではない。したがって、右金額の損金算入を否認し、これを所得金額に加算する。

(7) 損金と認められない給与手当

原告が、原告の給与手当であるとして損金の額に算入していた金額のうち、別表五記載の合計七七万四八七七円についてはその支払の事実がないので、右金額の損金算入を否認し、これを所得金額に加算する。

(8) 交際費等の損金不算入額

原告は、本件事業年度において、四二九万三七〇四円の交際費を支出したとして確定申告をし、租税特別措置法(昭和五六年法律第一三号による改正前のもの。以下「措置法」という。)六二条一項の規定を適用して算出した右金額に係る交際費等の損金不算入額二九万三七〇四円を所得金額に加算していたが、右申告額以外に、福利厚生費等の名目で損金に計上していた金額のうち、別表六記載の合計一三〇万六〇二六円は措置法六二条四項に規定する交際費等に該当すると認められ、一方、右申告に係る支出交際費の額のうちには、前記(3)のとおり、交際費とは認められない金額五二万〇四六〇円が含まれていたので、原告の申告に係る支出交際費の額四二九万三七〇四円に一三〇万六〇二六円を加算し、五二万〇四六〇円を減算した五〇七万九二七〇円を原告の支出した交際費等の額と認定し、措置法六二条一項の規定により右金額に係る交際費等の損金不算入額を算出すると、別表七記載のとおり一〇七万九二七〇円となるから、右金額と原告の申告に係る交際費等の損金不算入額との差額七八万五五六六円を所得金額に加算する。

(9) 繰越欠損金の過大控除額

原告は、確定申告において本件事業年度の所得金額から一二四九万六四八七円の繰越欠損金を控除していたが、原告が繰越欠損金の控除額として本件事業年度の損金の額に算入できる金額は五七〇万四九〇九円であるから、その差額六七九万一五七八円を過大に控除していることになり、損金の額に算入することができないから、右金額を所得金額に加算する。

(10) 損金の額に算入される支払家賃

原告が原告の代表取締役亘から賃借している静岡県伊豆韮山町所在の建物に係る賃借料八〇万円が損金の額に算入されていないので、これを損金として認容し、所得金額から減算する。

2  本件更正に伴う重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定の適法性

(一) 重加算税賦課決定について

原告は、前記1(二)(3)のとおり、訴外料亭千代田に対し五二万〇四六〇円を支払った事実がないにもかかわらず、外部の者からもらい受けた領収書を用いて、訴外料亭千代田に支払ったごとく仮装して帳簿書類に計上し、また、前記1(二)(4)、(5)及び(6)〈1〉のとおり、原告の代表取締役等が個人的に費消したことが明らかな金額について、あたかも原告の費用であるかのごとく仮装して諸会費、福利厚生費、支払手数料等に計上し、これを損金の額に算入して申告したものであるから、法人税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装したところに基づいて確定申告書を提出していたことになるので、被告は、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。以下同じ)六八条一項の規定に基づき、右仮装又は隠ぺいに係る所得金額に対応する納付すべき税額九〇万四〇〇〇円に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した二七万一二〇〇円の重加算税の賦課決定を行ったものであるから、右賦課決定は適法である。

(二) 過少申告加算税賦課決定について

本件更正により納付すべき税額のうち、前記重加算税の対象となる税額以外の税額二一六二万〇八〇〇円については、原告が法人税の確定申告を過少に行っていたことに基づくものなので、国税通則法六五条一項の規定に基づき、右税額二一六二万円(同法一一八条の規定により一〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した一〇八万一〇〇〇円(同法一一九条四項の規定により一〇〇円未満切捨て)の過少申告加算税の賦課決定を行ったものであるから、右賦課決定は適法である。

3  本件告知処分及び不納付加算税賦課決定の適法性

原告は、昭和五五年六月五日に原告の代表取締役亘ほか四名に富士忠物産の旧役員に対する退職金であるとして、亘に対して二八五〇万円、和哥子に対して三〇〇万円、利男に対して三五〇万円、力及び泰子に対して各六〇〇万円の合計四七〇〇万円を支払っているが、前記1(二)(2)記載のとおり、右支払金は退職金とは認められず、そのうち亘、和哥子、利男及び力に対する支払金はいずれも原告の役員に対する臨時的な給与、すなわち、役員賞与と認められるところ、原告は、右給与に係る所得税の源泉徴収をしていなかったので、被告は右給与に係る源泉所得税額一八四九万九一八四円(昭和五五年六月分の源泉所得税として納付されるべきもの)について本件告知処分を行うとともに、国税通則法六七条一項に基づき右税額一八四九万九〇〇〇円(同法一一八条により一〇〇〇円未満切捨て)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した一八四万九九〇〇円(同法一一九条四項の規定により一〇〇円未満切捨て)の不納付加算税の賦課決定を行ったものであるから、本件告知処分及び右賦課決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(一)のうち、申告所得金額及び繰越欠損金の過大控除額については認めるが、損金と認められない未払退職金、損金と認められない交際費、損金と認められない諸会費、損金と認められない福利厚生費、損金と認められない支払手数料、損金と認められない給与手当、措置法六二条による交際費等の損金不算入額及び差引所得金額については争う。

同1(二)(1)は認める。

同1(二)(2)のうち、原告が富士忠物産を吸収合併したとして、昭和五五年三月一〇日開催の臨時株主総会において、富士忠物産の役員であった者に役員退職金を支払うこと並びに退職金の額は亘に二八五〇万円、和哥子に三〇〇万円、利男に三五〇万円、力及び泰子に各六〇〇万円とすることを決議し、同年四月三〇日に右退職金を損金の額に算入するとともに未払金に振替経理したことは認めるが、原告が富士忠物産を合併したことはないとの事実は否認し、原告の亘、和哥子、利男及び力に対する未払退職金四一〇〇万円が賞与であり、泰子に対する未払退職金六〇〇万円が同人に対する贈与であるとの主張は争う。

同1(二)(3)のうち、原告が被告主張の金員を支払ったことはないとの事実は否認し、主張は争う。

同1(二)(4)のうち、原告代表者である亘が被告主張の金員を個人的に費消したものであるからその損金算入を否認するとの主張は争う。当時接待ゴルフが盛んであったため、原告代表者は個人的にはゴルフが好きではなかったが、付合いの必要上一応の技術を学んだものであるから、業務遂行上必要な費用であった。

同1(二)(5)のうち、被告主張の損金算入を否認するとの主張は争う。業務遂行上必要な費用であった。

同1(二)(6)のうち、〈3〉については認めるが、別表三記載の合計一二〇万一三六〇円を個人的に費消したとの主張は争い、別表四記載の合計一二五万円を支払ったことはないとの事実は否認する。別表三記載の金員は個人的にのみ費消したものではなく、不正貸出の調査のために借用証等の書類等を調べさせるために雇った家政婦に対する給料も含まれている。また、別表四記載の金員は金融機関の職員に支払われているが、その職員の氏名を明らかにすることはできない。同1(二)(7)のうち、原告が被告主張の金員を支払ったことはないとの事実は否認し、主張は争う。右金員は、原告代表者の妹がアルバイト募集を担当し、販促活動を行ったときに、アルバイトに対して現実に支払ったものであるが、アルバイトの氏名が不明だったので原告代表者の妹が自己の友人の氏名を借用し、その者に対して支払ったことにしたものである。

同1(二)(8)のうち、別表六記載の合計一三〇万六〇二六円が交際費等に該当するとの主張は争う。いわゆるサラ金の従業員の定着率は必ずしも高くないので、従業員に対し個別に酒食を提供し、意思の疎通を図ることは必要であり、福利厚生費として認められるべきである。

同1(二)(9)は認める。

2  同2の主張は争う。

3  同3の主張は争う。

五  原告の反論

原告と富士忠物産との合併について

1  原告と富士忠物産とは合併することに合意し、その手続の大半は終了し、昭和五二年七月二七日付け官報に合併公告が掲載され、実体的にも富士忠物産は原告に合体吸収され、経理上も二法人の収益、支出が一体となっている。ただ、原告と富士忠物産との合併手続について委任された訴外下川定税理士(以下「訴外下川」という。)が死亡したため合併の登記はされなかった。

2  商法上、株式会社の合併はその旨の登記をなすことによってその効力を生じると規定されている(同法四一六条一項、一〇二条)が、税法上合併について考慮する場合には、政策的配慮、実質的考察の立場から、商法の規定をそのまま適用すべきではないのであって、原告と富士忠物産との合併のように、登記手続が欠けているにすぎない場合には、その手続瑕疵は軽微であるから、合併があったものとして扱うべきである。

3  昭和五五年初めころ被告が行った原告の法人税調査の際に、調査を担当した権藤隆彦は、原告と富士忠物産が合併したことを前提とする経理処理を是認していたのであるから、本訴において被告が右合併の効力が生じていないと主張することは、禁反言の法理に照らし許されない。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1のうち、原告と富士忠物産とが合併することに合意し、昭和五二年七月二七日付け官報に合併公告が掲載されたことは認めるが、その余は争う。

2  同2は争う。

3  同3のうち、昭和五五年に権藤隆彦が原告の法人税調査を担当したことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の各事実については、当事者間に争いがない。

二  まず、富士忠物産が原告に吸収合併されたか否かについて検討する。

1  原告と富士忠物産とが合併することに合意し、昭和五二年七月二七日付け官報に合併公告が掲載されたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に成立に争いのない乙第一号証ないし第五号証、第一三号証ないし第一六号証、第二九号証、第三〇号証及び第三三号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第三一号証及び第三二号証、原告代表者尋問(第一回)の結果によって原本の存在及びその成立を認めることができる甲第三号証の二、弁論の全趣旨によって原本の存在及びその成立を認めることができる甲第一三号証ないし第一五号証、原告代表者尋問(第一回)の結果並びに弁論の全趣旨を併せると、以下の事実を認めることができる。

(一)  原告は、昭和四八年一一月二日に金融業等を目的として設立され、富士忠物産は昭和五〇年一〇月二〇日に金融業、飲食業等を目的として設立された。両社の代表取締役はいずれも亘であり、また、亘の親族が両社のその他の役員の大半を占めており、両社はいわゆる同族会社である。

(二)  亘は企業合理化のために原告と富士忠物産を合併させようと考え、原告と富士忠物産はいずれも昭和五二年五月二〇日に臨時株主総会を開催して原告が富士忠物産を吸収合併することを決議し、右決議に従い、両社は同年七月一日に合併期日を同月三〇日とする合併契約書に調印し、いずれも同月一〇日に開催した臨時株主総会で右合併契約を承認し、同月二七日の官報に合併公告が掲載されたが、合併の登記はされなかった。

右のように合併の手続を行う一方、原告の昭和五二年一月一〇日開催の取締役会において富士忠物産の貸付業務を受け入れることが承認され、同月二五日に富士忠物産の顧客に対する貸付金債権二五九四万六九七四円及び貸金業務一切が原告に譲渡された。また、富士忠物産は同年三月には飲食業の営業を停止し、金融業のために開設していた店舗も同年五月ころには閉鎖され、残務整理も遅くとも同年七月には終了した。

(三)  その後、富士忠物産は、昭和五一年九月一日から昭和五二年八月三一日までの事業年度の法人税について昭和五二年九月三日に確定申告書を、同年一二月一四日に修正申告書を、昭和五二年九月一日から昭和五三年八月三一日までの事業年度の法人税について昭和五三年一〇月三一日に休業中確定申告書を、昭和五四年三月一五日から同年八月三一日までの事業年度の法人税について同年一〇月三一日に清算事業年度予納申告書をそれぞれ提出した。また、同社は、昭和五四年三月一四日株主総会の決議により解散した旨及び代表清算人に亘が、清算人に力、鯨岡秀子が就任した旨の登記を同年四月五日にした。

(四)  原告は、富士忠物産から譲り受けた貸付金債権について昭和五二年一月二五日に貸付金勘定の借方に二二二一万二〇〇〇円を、貸付金信用貸勘定に三七三万四九七四円をそれぞれ資産として計上し、一方、富士忠物産に対する支払債務として未払金勘定の貸方に同額を計上した。右未払金勘定の貸方に債務として計上された二五九四万六九七四円は、昭和五二年四月一五日に長期借入金に振替処理され、右長期借入金は昭和五三年四月三〇日に富士忠物産からの他の長期借入金とともに合計二七三三万一八七四円の短期借入金に振り替えられた。そして、右短期借入金のうち一四三八万八〇一八円は同日原告の富士忠物産に対する立替金債権と相殺され、残りの一二九四万三八五六円は同日現在の借入金残高の一部として計上されている。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、原告と富士忠物産とは原告が富士忠物産を吸収合併することに合意し、その手続も進められたが、原告と富士忠物産との間の合併契約書において合併期日と定められた昭和五二年七月三〇日以降も原告と富士忠物産とはそれぞれ独立した法人として存在し、富士忠物産は株主総会の決議で解散するに至ったということができるから、両社は官報に合併公告が掲載された昭和五二年七月二七日以降に合併することを取りやめたものというべきである。したがって、原告が富士忠物産を吸収合併したと認めることはできない。

2  原告は、原告と富士忠物産との合併は登記手続が欠けているにすぎず、その手続瑕疵は軽微であるから、税法上は合併があったものとして扱うべきであると主張するが、前判示のとおり、原告と富士忠物産との合併は単に登記手続が欠けているのではなく、中途で取りやめられたものというべきであるから、原告の右主張は失当である。

3  また、原告は、昭和五五年初めころ被告が行った法人税調査の際に、調査を担当した権藤隆彦は原告と富士忠物産が合併したことを前提とする経理処理を是認していたから、本訴において被告が右合併の効力が生じていないことを主張することは、禁反言の法理に照らし許されない旨を主張する。そして、証人依田友吉は、原告では原告と富士忠物産とが合併したものとして経理処理していたところ、昭和五五年の調査の際に富士忠物産の名前で伝票が切られ、また、富士忠物産の売上、経費が原告の売上、経費の中に入っているということが問題となったが、結果的には右売上、経費は否認されなかった旨を供述し、原告代表者も同旨の供述をする(第一回原告代表者尋問)。しかしながら、成立に争いのない乙第九号証及び第一〇号証並びに証人権藤隆彦の証言によれば、被告が昭和五五年に行った調査は原告の昭和五二年五月一日から昭和五三年四月三〇日までの事業年度及び昭和五三年五月一日から昭和五四年四月三〇日までの事業年度を対象として行われたものであることが認められるところ、前記認定のとおり、原告は昭和五三年四月三〇日までの事業年度では富士忠物産に対する借入金を計上していたのであるから、少なくとも右事業年度までは富士忠物産は独立した別法人であるとの認識のもとに原告は経理処理をしていたというべきであるし、また、富士忠物産は昭和五二年五月には営業を終了していたのであるから、調査対象事業年度において富士忠物産の名前で伝票が切られ、富士忠物産の売上、経費が原告の売上、経費の中に含まれていたということも考えにくいうえ、証人権藤隆彦は伝票上は富士忠物産の名前は出てこなかったと証言しているのであって、これらの事情に照らすと、証人依田友吉及び原告代表者の前記供述は到底採用できず、他に権藤隆彦ないし被告が原告と富士忠物産との合併を是認したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、原告の右主張を採用することはできない。

三  本件更正の適法性(被告の主張1)について

1  被告の主張1(一)のうち、申告所得金額及び繰越欠損金の過大控除額については、当事者間に争いがない。

2  損金と認められない未払退職金(被告の主張1(二)(2))について

原告が富士忠物産を吸収合併したとして、昭和五五年三月一〇日開催の臨時株主総会において富士忠物産の役員であった者に役員退職金を支払うこと並びに退職金の額は亘に二八五〇万円、和哥子に三〇〇万円、利男に三五〇万円、力及び泰子に各六〇〇万円とすることを決議し、同年四月三〇日に右退職金を損金の額に算入するとともに未払金に振替経理したことは当事者間に争いがなく、原告が富士忠物産を吸収合併したものと認められないことは、前記のとおりである。また、前掲乙第一号証ないし第三号証によれば、昭和五〇年六月二九日から昭和五五年三月一〇日までの間の原告の役員は亘、和哥子、利男及び力の四名であり、右四名は昭和五五年三月一〇日までに退職していないことが認められる。したがって、原告が右四名の者及び泰子に役員退職金を支払う理由はないといわざるを得ない。

そして、亘、和哥子、利男及び力は原告の役員であるから、これらの者に対して支給された合計四一〇〇万円は、原告の役員に対する臨時的な給与すなわち役員賞与に該当すると認めるのが相当であり、右四一〇〇万円は損金の額に算入されない(法人税法三五条一項、四項)。また、泰子は原告の役員ではないから、同人に対して支給された六〇〇万円は未払寄付金と認めるのが相当であり、右金額も損金の額に算入されない(法人税法施行令七八条)。

3  損金と認められない交際費(被告の主張1(二)(3))について

(一)  原告が訴外料亭千代田に対して昭和五五年三月三日に二〇万九五八〇円、同月一〇日に三一万〇八八〇円の合計五二万〇四六〇円を支払ったとしてこれを交際費に計上し、損金の額に算入していたことについては、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

(二)  成立に争いのない乙第一八号証、証人谷口幸二の証言によって真正に成立したものと認められる乙第一七号の一、証人中島敏彦の証言によって真正に成立したものと認められる乙第一七号証の二ないし一五、証人山中順次郎の証言によって真正に成立したものと認められる乙第三四号証及び証人谷口幸二の証言によれば、原告が右の交際費の支出を裏付けるものとして保管していた領収証は山本良子、杉年恵、藤川信子、「五郎」という芸者及び北千住でとんかつ屋を経営していた者が訴外料亭千代田を利用し、同人らがその支払をした際に発行されたものであること、右の者たちが訴外料亭千代田を利用した際に細井ないし原告代表者が同席したことはなく、その支払を細井がしたこともないこと及び原告代表者は右五二万〇四六〇円について領収証を外部の者より集めて交際費に計上したことを認める旨を記載した嘆願書を被告宛に提出していることが認められるのであって、右認定の事実によれば、原告は訴外料亭千代田に対して右五二万〇四六〇円を支払っていないといわざるを得ない。

なお、原告代表者は、原告代表者は細井の紹介で訴外料亭千代田を利用するようになり、原告代表者自身が利用したこともあるし、銀行関係者あるいは原告に資金を提供してくれるスポンサーに利用させ、費用は原告が負担したことがある旨を(第一回原告代表者尋問)、また、原告代表者は細井の口座を利用させてもらっているので、原告代表者の分は細井が立替払をし、後に原告代表者が清算したので、領収証は細井を通して原告代表者に渡された旨を(第二回原告代表者尋問)それぞれ供述するが、右供述は前掲各証拠に照らし採用できない。また、甲第九号証には原告代表者は細井と一緒に訴外料亭千代田に来店したことがある旨の記載があるが、仮に右事実が存在したとしても前記認定を覆すものではない。

(三)  したがって、前記の五二万〇四六〇円の損金算入を否認すべきである。

4  損金と認められない諸会費(被告の主張1(二)(4))について

(一)  原告が昭和五四年七月二四日に訴外グリーンクラブに対して五万円を支払ったとしてこれを諸会費に計上し、損金の額に算入していたことについては、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

(二)  成立に争いのない乙第二〇号証及び証人中島敏彦の証言によれば、右五万円は原告代表者である亘がゴルフ練習場の会員になるために支払われた入会金であることが認められるから、右費用は原告の業務上必要なものではなく、亘が個人的に費消したものというべきである。したがって、右五万円の損金算入を否認すべきである。

なお、原告は、亘はゴルフが好きではなかったが、付合いの必要上一応の技術を学んだものであるから、業務遂行上必要な費用であった旨を主張するが、亘がゴルフの技術を学ぶことは原告の業務とは関係がなく、亘個人の能力、資質を向上させるにすぎないものであって、個人的生活において費消されたものといわざるを得ないから、原告の右主張は失当である。

5  損金と認められない福利厚生費(被告の主張1(二)(5))について

原告は訴外奥津弘之に対して昭和五四年六月一五日に二七万六〇〇〇円、同年七月一四日に一八万円、同月二〇日に三万二〇〇〇円の合計四八万八〇〇〇円を支払ったとしてこれを福利厚生費に計上して損金の額に算入していたこと及び右金員は原告の代表取締役である亘のゴルフレッスン料として支払われたものであることについては、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そして、右事実によれば右四八万八〇〇〇円の損金算入を否認すべきである。その理由は4(二)で述べたところと同様である。

6  損金と認められない支払手数料(被告の主張1(二)(6))について

(一)  原告が別表三記載の合計一二〇万一三六〇円は原告の支払手数料であるとしてこれを損金の額に計上していたことについては、原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

そして、証人中島敏彦の証言によって真正に成立したものと認められる乙第二一号証ないし第二三号証、同証言、原告代表者尋問の結果(第一、二回。但し、後記採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、右一二〇万一三六〇円は原告の代表取締役である亘及び原告の監査役たる力の自宅で就労した家政婦及び家政婦紹介所に対して支払われたものであること、亘らは自宅の清掃等の雑務をさせるために家政婦を雇ったこと、亘らに雇われた家政婦らは亘らの自宅で清掃等の雑務を行っただけで、原告の伝票整理等の仕事をしていないこと、以上の事実を認めることができる。原告代表者は、第一回原告代表者尋問においては、家政婦は家事には使っていない旨を供述し、第二回原告代表者尋問においては、家政婦の中には清掃等の雑務の外に原告の会社内の不正調査や原告の伝票整理をさせた者もいる旨を供述するが、右供述は、前掲各証拠及び成立に争いのない乙第一九号証によって認められる原告代表者は右一二〇万一三六〇円が役員賞与であることを認める旨を記載した確認書を被告宛に提出していることに照らして採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、右一二〇万一三六〇円は個人的に費消したものというべきであるから、その損金算入を否認すべきである。

(二)  原告が別表四記載の合計一二五万円は原告の支払手数料であるとしてこれを損金の額に計上していたことについては、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

ところで、原告は、右金員は金融機関の職員に支払われているが、その職員の氏名を明らかにすることはできない旨を主張し、原告代表者は、亡金田某ほかの金融機関の職員に支払った旨を供述する(第一回原告代表者尋問)。しかしながら、原告代表者の右供述は支払先、支払年月日、支払金額について具体的なものではないから、右供述のみによって右一二五万円の支払があったと認めることはできないし、他に右支払を裏付ける客観的な証拠は提出されていない。したがって、右支払はなかったと認めるのが相当である。

よって、右一二五万円の損金算入を否認すべきである。

(三)  訴外池田成章に支払ったとして支払手数料に計上されていた四万八七〇〇円は訴外芙蓉コンサルタント株式会社の設立費用であって原告の支払手数料でないことについては、当事者間に争いがないから、右四万八七〇〇円の損金算入を否認すべきである。

7  損金と認められない給与手当(被告の主張1(二)(7))について

(一)  原告が別表五記載の合計七七万四八七七円は原告の給与手当であるとしてこれを損金の額に計上していたことについては、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そして、原告代表者尋問の結果(第一回)によれば、右金員は別表五の支出相手先欄記載の者に支払われていないことが認められる。

(二)  ところで、原告は、右金員は原告代表者の妹がアルバイト募集を担当し、販促活動を行ったときに、アルバイトに対して現実に支払ったものであるが、アルバイトの氏名が不明だったので原告代表者の妹が自己の友人の氏名を借用し、その者に支払ったことにした旨を主張し、原告代表者は、アルバイトには「いしもと」、「後藤」、「大野」ほかを使い、給与を支払ったが、その際に領収証はもらわなかった、右の者らの名前、住所がわからなかったので、原告代表者の妹の知合いの氏名を使って領収証を作成した旨を供述する(第一回原告代表者尋問)。しかしながら、住所、氏名が不明な者をアルバイトとして雇用して給与を支払い、原告代表者の妹の知合いの氏名を使って領収証を作成するということは、極めて不自然であって、原告代表者の右供述は到底信じがたい。そして、他に右給与の支払がされたことを認めるに足りる証拠が提出されていない以上、右支払はなかったと認めるのが相当である。

(三)  したがって、右七七万四八七七円の損金算入を否認すべきである。

8  交際費等の損金不算入額(被告の主張1(二)(8))について

(一)  原告が本件事業年度において四二九万三七〇四円の交際費を支出したとして確定申告をし、措置法六二条一項の規定を適用して算出した右金額に係る交際費等の損金不算入額二九万三七〇四円を所得金額に加算していたこと及び原告が別表六記載の合計一三〇万六〇二六円を福利厚生費等の名目で損金に計上していたことについては、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そして、前掲乙第一九号証によれば、原告代表者は右一三〇万六〇二六円が交際費に該当することを認める旨を記載した確認書を被告宛に提出していることが認められるのであって、右事実によれば、右一三〇万六〇二六円は交際費であると認めるのが相当である。

原告は、いわゆるサラ金の従業員の定着率は必ずしも高くないので、従業員に対し個別に酒食を提供し、意思の疎通を図ることは必要であり、福利厚生費として認められるべきである旨を主張する。しかしながら、措置法六二条四項は、交際費等とは交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(もっぱら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用その他政令で定める費用を除く。)をいうと規定しているのであるから、従業員に対し個別に提供された酒食の費用が交際費等に該当することは明らかであって、原告の右主張は主張自体失当である。

(二)  前記3で判示したとおり、原告が交際費等として計上した金額のうち五二万〇四六〇円については支払の事実が認められず、また、右のとおり、原告が福利厚生費等として計上していた金額のうち一三〇万六〇二六円は交際費等に該当するから、原告の本件事業年度の支出交際費の額は、次のとおり、五〇七万九二七〇円となる。

4,293,704-520,460+1,306,026=5,079,270

右金額について措置法六二条一項の規定により交際費等の損金不算入額を算出すると別表七記載のとおり一〇七万九二七〇円となるから、原告の確定申告額との差額七八万五五六六円を所得金額に加算すべきである。

9  損金の額に算入される支払家賃(被告の主張1(二)(10))について

原告が原告の代表取締役亘から賃借している静岡県伊豆韮山町所在の建物に係る賃借料八〇万円を損金の額に算入していないことについては、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そして、右の事実によれば右八〇万円を所得金額から減算すべきである。

10  以上によれば、原告の本件事業年度の所得金額は五九一一万五四〇四円となるところ、本件更正における所得金額は右金額と同額であるから、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法はない。

三  重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定の適法性(被告の主張2)について

1  重加算税賦課決定の適法性について

前記二3で判示したところから明らかなように、原告は、訴外料亭千代田に対して五二万〇四六〇円を支払っていないにもかかわらず、これを支払ったかのごとく仮装して右金額を帳簿書類に計上し、また、前記二4、5及び6(一)で判示したところから明らかなように、亘及び力が個人的に費消した金員について、原告の費用であるかのごとく仮装して交際費、諸会費、福利厚生費あるいは支払手数料に計上し、いずれも損金の額に算入して確定申告していたのであるから、法人税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を仮装したというべきである。そして、被告は右仮装に係る所得金額に対応する納付すべき税額九〇万四〇〇〇円を対象として重加算税の賦課決定をしたのであるから、右賦課決定は適法である。

2  過少申告加算税賦課決定の適法性について

被告は、本件更正によって納付すべきこととなった税額から重加算税賦課決定の対象とされた税額を差し引いた二一六二万〇八〇〇円を対象として過少申告加算税賦課決定をしたのであるから、右賦課決定は適法である。

四  本件告知処分及び不納付加算税賦課決定の適法性(被告の主張3)について

原告が昭和五五年六月五日に富士忠物産の旧役員に対する退職金であるとして亘に対して二八五〇万円、和哥子に対して三〇〇万円、利男に対して三五〇万円、力に対して六〇〇万円を支払ったこと及び原告が右支払に係る所得税について源泉徴収していなかったことについては、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そして、前記二2で判示したとおり、右支払金は亘らに対する役員賞与に該当するものである。

してみると、右役員賞与に係る源泉所得税額一八四九万九一八四円についてされた本件告知処分及び右源泉所得税額を対象としてされた不納付加算税の賦課決定が適法であることは明らかである。

五  よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 北澤晶 裁判官生野考司は転官のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 宍戸達徳)

別表一

法人税の課税処分の経緯

〈省略〉

別表二

源泉所得税の納税告知処分の経緯

〈省略〉

別表三 損金と認められない支払手数料のうち、家政婦等に対する支出の内訳

〈省略〉

別表四 損金と認められない支払手数料のうち、支払ったとする事実が何ら認められない支出の内訳

〈省略〉

別表五 損金と認められない給与手当の内訳

〈省略〉

別表六 福利厚生費等の名目で損金に計上していた金額のうち、交際費等に該当すると認められるものの内訳

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別表七 交際費等の損金不算入額の算出経過

〈省略〉

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